坂出市視察-「Saka-Biz」-
坂出市視察 「Saka-Biz」に学ぶ、事業者に寄り添う伴走型支援
― 相談件数ではなく、事業者がどう変わったか。市直営へ移行したビジネスサポートセンター ―
2026年7月10日、会派「市民の声ちがさき」の行政視察で香川県坂出市を訪問し、「坂出ビジネスサポートセンター Saka-Biz(サカビズ)」についてお話を伺いました。
坂出市は瀬戸内海に面した港町として発展してきたまちです。かつては製塩業や製造業が盛んで、企業活動を支える金融機関も多く立地してきました。現在は人口減少や産業構造の変化が進む一方、坂出駅周辺の再整備など、まちの新しい姿をつくる取り組みも進められています。
今回視察したSaka-Bizは、地域の中小企業や小規模事業者、創業を考えている方などを対象に、売上向上や事業の課題解決を支援するビジネス相談拠点です。
お話を聞いて特に印象に残ったのは、単なる「経営相談窓口」ではないということでした。
補助金を紹介するだけではなく、事業者自身の強みを引き出す
Saka-Biz導入のきっかけとなったのは、坂出市議会による他自治体のBizモデルの視察でした。
その後、坂出市と商工会議所が協議を重ね、地方創生交付金を活用した5年間の事業として計画を策定し、令和3年度から本格的に事業がスタートしました。
Saka-Bizが大切にしているのは、事業者に補助金や融資制度を紹介することだけではありません。
相談者との対話を通して、
「この会社の本当の強みは何なのか」
「この商品を必要としているのは誰なのか」
「どうすれば売上につながるのか」
を一緒に考えます。
事業者自身が気付いていない魅力を引き出し、その強みを商品開発、販路開拓、広報、PR、SNSなどにつなげていく。
そして、提案して終わるのではなく、実際に動き出すところまで伴走することが特徴です。
商工会議所や金融機関が制度の案内や融資、各種手続きなどを担う一方、Saka-Bizは事業そのものに向き合い、事業者と一緒に戦略を考える。
それぞれが同じ仕事をするのではなく、役割を分けながら連携していることも特徴でした。
5年間で相談5,000件、639事業者
Saka-Bizでは、これまでの相談件数が累計5,000件を超え、相談に対応した事業者は639社に上ります。
単年度でも年間1,000件規模の相談が寄せられており、一度だけではなく、繰り返し相談に訪れる事業者が多いことも特徴です。過去にはリピート率が約74%となった年度もあったとのことでした。
この数字を見ても、一度相談を受けて終わる場所ではなく、事業を進める中で何度も相談する「伴走型」の支援であることが分かります。
相談内容を見ると、現在最も多いのは販路開拓やPRに関する相談で、全体の約53%を占めています。
事業開始当初、コロナ禍では経営方針の見直しなどの相談が多かったものの、その後は「どう売るか」「どう知らせるか」といった相談へと変化してきました。
相談者の業種にも変化があります。
当初は製造業の相談が多かったそうですが、現在はサービス業や生活関連サービス業の相談も増えています。
また、男性中心だった相談者に女性が増え、創業後5年未満の事業者や事業承継を考えている方からの相談も増えているとのことでした。
さらに、市外からの相談も4割を超えるまでになっています。
坂出市外の方であっても、まず相談を受け、その後、坂出市内での創業や事業者とのマッチングにつながる可能性を探るなど、柔軟な対応をしていることも印象に残りました。
「相談件数を増やす」から「課題を解決する」へ
これまでSaka-Bizでは相談件数を一つのKPIとしてきました。
セミナーなどを開催し、まずSaka-Bizを知ってもらい、相談につなげていく取り組みも行われてきました。
しかし、相談件数が5,000件を超えるまでに成長した現在、坂出市では次の段階に入っています。
今回のお話の中で印象に残ったのが、
「件数を追いすぎると、相談の質が下がる可能性がある」
という考え方です。
何件相談を受けたのか。
何回セミナーを開催したのか。
こうした数字は行政事業では分かりやすい指標です。
しかし、事業者にとって本当に大切なのは、その相談によって何が変わったのかです。
売上が伸びたのか。
新しい商品ができたのか。
新しい販路ができたのか。
創業につながったのか。
事業を続けられるようになったのか。
今後は、こうした「成果」をどう評価し、どう見せていくかが課題だということでした。
これは、行政の事業評価を考える上でも非常に重要な視点だと思います。
行政はどうしても、参加者数や相談件数など「やったこと」を実績として示しがちです。
しかし、市民や事業者から見れば大切なのは、「それによって何が変わったのか」です。
Saka-Bizが相談件数を伸ばす段階から、相談の質や成果を重視する段階へ移ろうとしている点は、茅ヶ崎市の事業評価にも通じるものがあると感じました。
2026年度から市直営へ
Saka-Bizは開設当初、坂出商工会議所への委託によって運営されていました。
地方創生交付金を活用した5年間の事業期間が終了した後、一年間の暫定的な運営を経て、2026年度から坂出市の直営となりました。
所管は産業観光課です。
直営化した理由の一つが、現場で聞いた事業者の声を、より直接的に市の政策へ反映することです。
これまでは、市が事業を委託し、受託者が事業者から相談を受ける形でした。
直営となることで、市職員自身が相談の現場に近くなり、
「どのような支援が求められているのか」
「現在の制度が事業者の実情に合っているのか」
を直接把握し、施策の見直しにつなげやすくなります。
実際に、創業支援策でも現場の声によって制度の考え方を変更した事例がありました。
当初は中心市街地や女性の創業など一定の条件を設けた補助制度を検討していましたが、相談を受ける中で「住宅地で創業したい」といった声があることが分かり、対象を市域全体へ広げる方向へ見直したとのことでした。
制度を先につくり、市民に当てはめるのではなく、相談現場から制度を変えていく。
市直営の強みの一つだと感じました。
直営化で運営費も見直し
Saka-Bizの運営には、これまで年間2,000万円から3,000万円程度の費用がかかってきました。
主な経費は人件費です。
令和6年度の委託費は約1,600万円強で、関連事業費が約100万円。地方創生関係の国庫補助も活用してきました。
2026年度の直営化後は、外部に支出する経費としては約660万円となり、コーディネーターや事務職員などの経費に充てられています。
一方で、センター長や事務局長など市職員の人件費は別にかかるため、「660万円で運営できるようになった」という単純な比較はできません。
市職員の人件費まで含めれば、1,000万円から1,000数百万円規模になるとの説明でした。
それでも、委託から直営へ移行することで、外部支出を抑えながら、市の政策との連動を強くすることを目指しています。
また、専門コーディネーターについては昨年度の2名から今年度は4名に増員。
今後は県の「よろず支援拠点」などとも連携し、さらに専門的な相談体制を整えることも検討されています。
大切なのは「徹底して調べること」
相談支援の質について伺う中で印象に残った言葉があります。
それが、
「徹底したリサーチ」
です。
相談に答えるためには、市場、店舗、商品、消費者の動き、メディアなどを日常的に調べ続ける必要があるということでした。
相談者の話を聞いて、その場の思いつきだけでアイデアを出すのではありません。
世の中では今、何が売れているのか。
どのような商品が注目されているのか。
どのような見せ方ならメディアが取り上げるのか。
競合する商品はどの程度の価格なのか。
こうした情報を調べた上で、その事業者に合った提案をする。
「伴走支援」と聞くと、人柄や相談のしやすさが注目されがちですが、本当に結果を出すためには、支援する側に相当な専門性と情報収集力が必要だということが分かります。
女性の起業を後押しする
今回の視察で、もう一つ興味深かったのが女性の起業支援です。
坂出市役所内には女性が起業について相談しやすい環境があり、SNSなどでも具体的な支援事例を積極的に発信しています。
紹介いただいた一つが、米粉のシフォンケーキを販売する女性の創業事例でした。
最初から「これを売れば成功する」という答えがあったわけではありません。
相談の中で本人の強みを整理し、商品の特徴を考え、「グルテンフリー」という強みを明確にしました。
その後、試作を重ね、マルシェなどで限定販売しながら反応を確認。
Instagramで継続的に情報発信し、PRを行い、メディアにも取り上げられました。
そして店舗をオープンした初日には行列ができたそうです。
私は、この過程がSaka-Bizの考え方を非常によく表していると思いました。
最初から大きな投資をするのではありません。
小さく始める。
お客様の反応を見る。
修正する。
また試す。
そして、手応えを確認してから次へ進む。
創業には当然リスクがあります。
特に子育て中の方や、これまで会社員だった方、60歳を過ぎて第二の人生として何かを始めたい方にとって、大きな借入をして始めることは大きな負担になります。
Saka-Bizでは、融資を受けることを前提にするのではなく、できるだけリスクを抑えながら事業化を考える姿勢を大切にしていました。
女性やシニアの小さな起業が地域経済を支える
女性の創業支援について伺う中で、「所得が増えれば、市税にもつながる」という話もありました。
これは茅ヶ崎市にとっても重要な視点です。
茅ヶ崎市は市税の中でも個人市民税の比重が大きいまちです。
大規模工場を次々と誘致することが難しい都市だからこそ、一人ひとりの市民が働き、所得を得て、地域で消費する仕組みをどうつくるかは重要です。
例えば、子育てが一段落した女性が自分の経験や技術を生かして小さな事業を始める。
定年を迎えた方が、これまで培った経験を生かして新しい仕事を始める。
自宅の一部を使って創業する。
最初は小さな事業でも、売上が増えれば雇用が生まれる可能性もあります。
そして、地域のお店や事業者との新しい取引が生まれます。
私はこうした「小さな起業」も、地域経済政策としてもっと注目してよいと感じました。
金融機関が多い坂出市
坂出駅周辺を歩くと、金融機関が多いことにも気付きます。
その理由について伺うと、坂出市が製造業などで活気があった時代の企業活動が背景にあるとのことでした。
企業が多く、資金需要があれば金融機関も集まります。
一方で現在は、人口減少やインターネットバンキングなど金融業務のDX化に伴い、支店の統合や縮小も進んでいるとのことでした。
地域の経済構造が変化すれば、金融機関の姿も変わります。
だからこそ、行政、商工会議所、金融機関、Saka-Bizがそれぞれ別々に事業者を支援するのではなく、役割を明確にして連携していくことが重要になります。
茅ヶ崎市で考えたいこと
茅ヶ崎市にも、商工会議所、金融機関、県のよろず支援拠点など、既にさまざまな相談先があります。
ですから、今回の視察を受けて、単純に「茅ヶ崎にもSaka-Bizをつくればよい」とは考えていません。
まず確認しなければならないのは、
今ある相談体制が事業者に十分知られているのか。
困った時にすぐ相談できるのか。
一度だけではなく、継続して相談できるのか。
相談した結果、事業者の課題解決につながっているのか。
ということです。
そして、商工会議所、金融機関、行政、専門家が持っている力を、もっとつなげることができないかを考える必要があります。
特に茅ヶ崎市には、飲食、美容、スポーツ、健康、農業、ものづくり、デザイン、音楽、観光など、小規模でも魅力的な事業がたくさんあります。
「良いものを持っているけれど、売り方が分からない」
「自分の経験を仕事にしたいけれど、何から始めればよいか分からない」
そんな方の一歩を後押しする仕組みは、茅ヶ崎にも必要だと感じています。
「相談を受けた」で終わらせない
今回のSaka-Biz視察で、私が一番大切だと感じたのは、「相談件数」ではなく、「相談した人がどう変わったか」という視点です。
5,000件という相談件数は大きな実績です。
しかし、坂出市自身が、これからは件数だけを追うのではなく、相談の質や実際の成果をどう評価するのかを考えていました。
これは産業支援だけの話ではないと思います。
行政には、さまざまな相談窓口があります。
市民から声を聞く機会もあります。
しかし、声を聞くだけでは暮らしは変わりません。
事業者の相談であれば、課題を整理し、強みを見つけ、具体的な方法を考え、実行し、結果を確認する。
そして、そこで見えてきた課題を次の政策に反映する。
この循環が必要です。
Saka-Bizが市直営へ移行した理由にも、現場の声を政策に直接つなげたいという考え方がありました。
私はここに、今回の視察で最も学ぶべき点があると感じています。
地域には、まだ表に出ていない力があります。
今ある事業者の強みを見つけること。
これから挑戦したい人の背中を押すこと。
行政だけで抱え込まず、商工会議所や金融機関、専門家とつなぐこと。
そして「支援しました」で終わらず、その方がその後どうなったのかまで見ること。
坂出市のSaka-Bizの取り組みを参考にしながら、茅ヶ崎市に合った中小企業・創業支援のあり方を、これからも考えていきたいと思います。
最後になりますが、今回の視察にあたり、ご多忙の中、丁寧にご説明いただき、私たちの質問にも一つひとつお答えいただいた坂出市の皆さま、坂出市議会の皆さま、そしてSaka-Bizに関わる皆さまに心より感謝申し上げます。
貴重な学びの機会をいただき、本当にありがとうございました。
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